地球で生きたふりをしていた
海を知り尽くしたつもりでいた
だから本当の海を知るには
全ての道具を捨て、裸で行かなくてはいけないと感じた
それがこの波の裏側へ向かった理由である
理由なんていくらでも湧いてくる
防水カメラを握りしめ、残った片手と足ひれだけで
どんなに時間がかかろうと、遥か沖まで泳いでいく
あまりに青く美しい怖さの中に独り身を置くには
酸素ボンベもストロボも、余計な心もしっかりと海岸に置いてこないと
人間達が「波」と勝手に名付けた透明な波動の中で生きては戻れまい
見てはいけないものを見てきた
どこまでも透明な水に1瞬の影が現れ、1枚の写真に写るようだが
両目で海を見据え、人間臭い作為が入る余地がないまま
ノーファインダーで押す
「波」なんて「物」はそもそもなかった
沖の水なんて1滴たりとも海岸には来ちゃいない
微細な水の粒子が、高速な紙芝居で水素結合を繰り返しては離れて行く姿を波と呼ぶが
これは実は地球の呼吸であり、つまり波動である
水の竜巻が水中で横に回転しながら、まるで生きた龍の様にうねる
水の中に水中がある訳で、そんな不可思議な事実として1枚の写真は語る
人には波の裏側を写していると言うが
本当は何を写しているのか未だわからない
水から太陽を写しているのかもしれない
見えない風を写しているのかもしれない
これは誰もいない何億年も人を知らない「波」という目には見えない有機体と
溶け合った15年間の記録である
地球は人間が手に入れる事も、手に入れてはいけない。
いずれは絶滅していく青い地球の、美しい怖さと儚さの中で、人は自然に地球を尊ぶものだ
青空の雲は空気中の水の粒子、青海の雲は水中の空気の粒子
なんだ同じ水素原子じゃないか と笑う訳だ
写真は真実しか写せないから、被写体に出来るだけ心をよせる事
写真は一切の嘘をつけないとカメラから教わった
Photo From Cook islands Rarotonga の沖500m