独りを慎む
弓馬武芸の家に生まれて
兵の名をうしなってならないと、思うのであれば
毎朝寅の刻に起き(4時から6時)
我が身を清め、衣服を替え、諸天に祈りの誠を捧げ
神明を崇敬し、信じて疑ってはならない。
いましめを細かい点にまでゆきわたって実践し
邪を除き、愚にならず、痴にならず、心は均衡を保っているか、
道は通じて塞がっているか
これらを独りで知り、独りで思えば、これによって知識がはっきりと
よくわかってくるのである。
立派な人とつまらぬ人と、智に至ると愚に至るとの違いは
「ただ独りで慎むか、慎まないか」
の違いである
独りである事を慎んで自らの心に欺くことがなければ
礼節や信義もまたその身から外れる事はありえない
天地の神明が物体へとのりうつり
智もまた偉大な霊力に導かれて発揮されるものである
楠正成 河陽兵庫之記
現代語訳 家村和幸 編著