生きたふり

この日はボートで沖へ行った

山から吹く風と

波は轟音をたてて崩れていた

水面から4〜6m

行くか?

行かぬか?

死ぬかな?

逃げれるかな?

端っこにいれば大丈夫かな?

妄想と予想で

しばらく波から離れた場所の小舟で見ていた

やっぱり行くから近くまで行ってくれる?

とフィジーアンの仲良しのセブに言う

わかった

俺は波から離れた場所にいるから

帰るときに呼んで

怖いと思うことは大切

その怖さと溶け合うことが何よりの幸せ

人の息の続くだけ、足ひれと

片手にカメラ、片手クロールで泳ぐ

緊張と研ぎ澄んだ野生と、街で生きたふりをしていた自分を超える喜び

これこれ!

これですよ!

と、一人波の中で大笑い

一時間ほど波の中を泳ぎ潜り回転し

目が回り、気持ち悪くなった

小舟に向かい泳ぐが、水中の渓谷の先は

深い群青の底の見えない海

サメが来ないか帰りも怖い

小舟のセブにカメラを渡し、上に這い上がるとほっとする

冷たいシャワーを浴び、波を望む小屋で本を読む

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