12/20 2002 虹
8時にハワイ特有の赤いの泥の水たまりを避けながら、車へ乗り込んだ。
ノースショアは雨まじりにかすんでいた。
数分で目的の海岸に着いた。
泥棒が多い為、車を表通リに停め車内に何も残さないようにした。
海へ出る道で偶然昨日会った、イスラエル人にすれ違った。
しばらく観察するとサーファーが数人沖に見え、泳いでみようと思った。
もう一度宿へ戻り軽い朝食と機材を準備し海へ向かった。
雨で固くしまった冷たい浜に広がる海でストレッチをした。
(とても今では考えれない至って簡単な気持ちと準備だった)
そして沖へ泳ぎ出すが、すぐにカレントに流され、絶え間なく崩れる波に木の葉の様に翻弄され始めた。
降りかかる水とパワーは桁外れだった。
息が上がり巻き込まれた。
さらに片足のフィンが脱げた。
気道の辺りからヒューヒューと音がし、何故か酸素が肺に全く入らなくなった。
穴が開く訳がないのだが、のど元を触り何がおきたのかを知りたかった。
暗い泡の中で恐怖とパニックに包まれた。
やがてあまりの苦しさに、泳がない方が楽なのではと
暗い水中で弱さと怖さに潰されかけた。
これが今思えば死線というものかもしれない。
昔パラオの深い海で意識がなくなりかけた時を憶いだした。
あの時と同じく、一人の中には二人がいて、これはもう一人の弱い自分だと落ち
着かせようとした。何故か先祖のひいじいさんに助けを求めた。
努めて冷静にすると音は肺に通じる気道の弁で、恐怖で細くなっているのだとわかった。
とにかく深い呼吸をし落ち着かせたかった。
スイッチを入れた様に気持ちがこの世に戻り、自分の体と繋がった気がした。
同時に次には笑っていた。
肺に水が入れば終わりだから、これ以上水を飲まないように口を片手で覆い
海岸までの距離と流れを溺れながら目測ではかった。
変な話だが、これ以上の最悪の溺れ方は意識がある内にはないという、
2度と出来ない体験をした事がうれしくてたまらなくなった。
数分後なんとか波に乗りながら足がつく海岸にもどった。
フラフラで足にも乳酸がたまり、すねの筋肉がかちかちで動かず、
寒さと怖さで、体が震え、しばらく呆然と小糠の雨の降る冷たい海岸に座った。
見上げるといつの間にか海に巨大な虹がでていた。
やってしまった!
素人がエベレストへ来たのだと痛感した。
もうすこしは泳げると思った自分が何も出来ずに溺れた事にがっくりきた。
本気で訓練をしなければ、命はすぐについえてしまう。
大好きな海に潰されたが、すべては甘い自分のせいだと海に謝った。
しかしこのままでは今日は終わらないと感じた。
あえてもう一度今日ここに戻り、泳がなくてはこれから先の自分はないと直感した。
この絶望的な気持ちも戻さなくてはいけない。
身も心もどっと疲れた。
途中スーパーで甘いデニッシュを買い、ひたいを壁につけながらシャワーを浴びた。
髪も乾かぬうち2段ベッドに潜り込んだ。