人は器
なんだか打ち寄せる波で
戻れるか?心配だった
磯から戻る決意をした
怖いなここ
何か聖域だが
堤防が悲しい
海がないている
45分くらい泳いでいたが
波もなくなり
体は冷え
波がかき混ざる海面で少しよった
水を浴び
冷えた体で車を元きた森の道を
走らせると、カーブの隙間に軽トラのよこに
年季が育てた海の男がいた
車の窓から
おはようございます
と話しかけると
天草にきた
と北島三郎のようなおじいさんだった
車から降り1枚
その顔のシワの海のオヤジを撮りたかったが
疲れたからそのまま宿へ走らせるが
でも気になり
カメラケースとレンズを入れ替え
また海の親父のいた場所に行くが
もちろんもういなかった
海に目を凝らすと
ブイがあり
その横で潜る黒い人がいた
急いで岩場を歩くとそこは
丸い大きな石の浜で
大潮で引いた海は浅く
ひたすら両方の素手で岩の天草を
むしり、網に入れていた
水中で目が合うと
うなずき
水面に顔を出すと
立ち泳ぎで
シュノーケルを外してくれ
話し始めた
さっきはどうも
おっ!
明け方、誰か向こうにいたな
あれ
俺です
写真撮ってました
慣れてるんだな
また潜り
ひたすらむしる
邪魔しないように潜って写す
なんかレンズが寒さで曇ってきた
急いで浜に戻り
また蓋を開け湿気を取りまた海へ
波が結構きて危ないな
親父さん
帽子いるな
(寒いから心配してくれ、ヘッドキャップのことを言う)
はい
冷たくて驚きました
まだあったけーよ
俺なんかグローブしないよ今日は
おいくつですか?
すごいですね
60歳?
ありがと
80だね
80?!
思わず水を飲んだ
背中には海の石を
鉛のオモリのベルトの
他に背負っている
長い経験の浮力のいいバランスなんだろうな
ゴムバンドで腰に巻いている
すごいな
ウェットもぶかぶか
袖が長いじゃん
また浮いてきた
俺ね潜り55年!
フーテンの寅次郎
島に来たのはかみさんが島だから
そうなんですか〜
元は亀有
あの下町の?
そうだ〜
(寅さんは柴又帝釈天で、亀有は亀有天満宮と葛餅の船橋屋じゃないか)
また曇った!
ちょっと待っててください
だめだ!
また宿に戻りカメラを元のケースに戻しセットしにかえる
いるかな?
いた!
笑顔のオヤジさん
お名前は
ヤマグチ〜
さしきじ〜
ししじ?
さしじき〜
さしじき?
さしきじ〜
水中眼鏡で鼻が隠れ
声がこもり
お互い笑う
また来ますね〜
流石に冷えた
疲れた
お互い海を理解している同士の阿吽の空気
で
帰りがやられるな
あぶいないら
あれで怪我するな
と海岸にうち寄せる波を見る
ほんとですね
気をつけてくださいね
名残惜しい海の人
人は器
笑顔と命がけで
海と生きてきた男の大きさ
を知る